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古今著聞集
十二/偸盗
かゝる程に、大明神の御詫宣に、我国第一の能説おきかん事お悦思ふに、いかにかくさまたげおばなすぞと、しめしたまひければ、恐おなして、本議にまかせて請じ下してけり、誠に富楼那の弁説おはきて、衆人感涙お垂ぬはなかりけり、随喜のあまり南都こぞりて、われもわれもと臨時の仏事おはじめて請じける程に、布施はしたなく多く取てのぼるとて、日たけて出たりけるに、奈良坂にて山だち(○○○)待まうけて、布施物みなうばひ取けり、〈○中略〉山だち共忽に惡心おあらためて帰伏せるけしきに成て、うばひ取所の物共、こと〴〵く返しあたへてけり、