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古今著聞集
十二/偸盗
いづれの比の事にか、西の京成者、夜ふかく朱雀門の前お過けるに、門のうへに火おともして侍りけり、此門にはむかし鬼すみけると聞に、今もすみ侍るにやと、おそろしさ限なくて過ぬ、其後又ある夜とおるに、さきのごとく火おともしたり、此事あやしくて、在地に披露しければ、死生不知の村人共、評定して、いざ行て見んとて、そこばく来りて、門にのぼりて見ければ、いとなまやか成女房一人臥たりけり、思ひよらぬ事なれば、ばけ物なめりとおそろしながら、事の子細おとふにはや〳〵盗人なりけり、とし比此門にすみて、夜るはがうだうおしてすぎけるが、此程手お負てやみふして侍りける也、