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沙石集
六/上
強盗之問法門事
鎌倉の若宮に、三井寺法師実相院の民部阿闍梨円智と雲真言師有けり、説法なれども尋常なりけるが、或時請用して、布施物巨多に取てけるお、強盗五六人彼房に打入て房主おとらへて布施物おはこびとる、其間強盗法師一人、此房主に真言の法門お問答しけり、次第に事相の大事共お問時、是は宗の大、事なれば、たやすく雲べからずと雲時、此法師さらば御房おあやまち奉るべしとて、長刀お胸にさしあてヽ、〓にの玉へと雲けれども少しもさはがず、雲べきほどの事は答つ、この重は我宗の大事也、命おしとも争か雲べきと雲ける時、此法師御房はいみじき仏法者にて御坐けりとて、大に随喜して、はこびける用途十結おば、御布施に奉つる也とてすてヽ帰にけり、彼不当の心の中に、加様にしける事わりなくこそ、是は近き事也、たしかに聞つたへて、或人かたり侍りき、