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近世事物考
おいらん(○○○○)
今新吉原町にて、揚代高き妓女おおいらんといへり、こは元禄年間、吉原仲の町へ、女郎銘々より桜お多く植たるに、其頃岸田屋何某の禿の句に、おいらんがいつちよく咲桜かな、此意は、俗においらの姉女郎の植し桜が、いちばんよく咲たりと、ほこりたることなり、おいらといふべきお、此俚言においらんとなまりていひしなり、此時より太夫の名に成たり、されば其召つかはるゝ者より雲ふべき詞なるお、他よりいひては義にたがへれど、今は誰もおいらんといふなり、