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貞丈雑記
二/人品
一白拍子と雲ふは遊女也、是は鳥羽院の御時、島の千歳(せんざい)、和歌の前と雲ふ弐人の女舞出だしけると也、始は水干に立えぼしお著て、白鞘巻お〈銀作りのさや巻也、さや巻の事、刀劔の部にしるす、〉さして舞ひければ、男舞とぞ申しける、然るお中比より、えぼしおばのけて、水干ばかり著て舞ひたるよし、平家物語に見えたり、水干は多くは白色お用ふる物なれば、かの島の千歳、和歌の前の著たる水干も、白かりしによりて、白拍子と名付けたるなるべし、朗詠集にある詩歌などおうたひ舞ふ物也、今も猿楽の能に、白拍子の形おして舞ふ事有、古の白拍子の体お、昔よりまなび来りたる物なり、