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北里十二時
かりにもおにのとは、在五の物語にしるしつけたり、あだちの原のくろ塚にとは、兼盛の朝臣ぞよみたなる、大江戸の北にあたりて、然るものゝすだくところあり、よしはらのさととはよぶめり、げにつながぬ舟のよるべさためず、あくがれまどふたはれおの、枕ひきゆふわたりなりとか、いでやかゝるたのしき所にあそびては、わかきどちのはなごゝうには、家路に帰らんこともわすれて、斧の柄もこゝにくだいつべし、かの御仏のすみだまへる極楽の国お、かけて聞えんはかたじけなけれど、あそびがともがらにも、猶こゝの品のけぢめありて、そのしなさまざまにわかれたり、さるおげほんといへどもたりぬべしなどいふは、よくすいたる人の詞なるべくや、