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嬉遊笑覧
九/娼妓
柴屋町、箕山雲、近江国大津遊廓に、世に柴屋町といひならはし侍れども、馬場町なり、柴屋は遊廓の外下の一町おいふ、傾城廓中の外へ出ず、天神廿六匁、小天神廿一匁、囲十六匁、青大豆十匁、半夜八匁なり、夜みせのみ、昼みせなし、傾城先年は八町の旅館迄も出しぬ、いつよりか制禁なり、今はさびわたり、昔の五分が一もあらず、伏見より少まさりたれど、かくおとろへたれば、いづれともわきがたし、一代男、柴や町みやこに近き女郎の風俗もかはり、端局に物いふ声の高く、ありくも大足にせはしく、きる物もじだらくに、帯ゆるく、化粧も目だつ程にして、よしあし共に三線おにぎり、づおふつてうたふ、立よるものは、馬かた、丸太舟のかこ、浦辺のれうし、すまふとり雲々、此処おいさかひの場にして、命しらずのより合、身お持たる者の、夜ゆく処にあらず、永代蔵に、大津の事おいふ処、近年問屋町長者のごとく、屋造り、昔にかはり二階に撥音やさしく、柴屋町より白女よびよせ、客の遊興昼夜かぎりなし、〈此事延宝中には止たりといひしが、又貞享ごろ再興したりとみゆ、〉丹前能に、柴屋町格子女郎禿あり、揚屋お中宿ともいふ、端女郎小屋に青のれんかくる、局といふとあり、