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慶長見聞集

遊女共江戸おはらはるゝ
見しは今、江戸繁昌にて、諸人ときめきあへる有様、高きも、賤きも、老たるも、若きも、かしこきも、おろかなるも、彼まとひの一つやんごとなし、されば吉原町お見るに、遊女共我おとらじと、べにおしろいおかほにぬり、門毎に立ならびたるは、誠に六宮のふんたいの顔色も、是にはまさらじ、〈○中略〉此由御奉行衆聞召、とかくかれらお江戸におくべからずと、女の数おあらため給ふに、おしやうと号する遊女卅余人、その次の名おうる遊女百余人、皆こと〴〵く箱根相坂おこし、西国へながし給ふ、実や此道は智者も愚もかはる事なし、戦国策に男色老おやぶる、女色舌お破るといへり、此道ふかくつゝしむべき事也、