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嬉遊笑覧
九/娼妓
やり手とは、後の名にて、もとくわしやといへり、人倫訓蒙図彙に、傾城に付くるおやり手と有、また芝居役者太夫の条に、三十より四十におよぴては、くわしやかたといふと有り、火車とは、つかむといふ意、つかむは、昔のはやり詞、女郎お買おつかむといへり、心易く我儘にする意なり、つかめなどいふは、とらへてこよと雲が如し、やりても、女郎の掟するものにて、つかむといふ意あれば、名けしなるべし、金銀おつかむにはよらじ、火車は聞苦しきゆえ、花車として、風流の名としたり、さるお花車とは花にまはる心なりといふは、かの、散茶おふらのといふ謎とせしと同日の談なり、偶その意に通ひし也、やりては花車の車より出たる名なり、庭訓抄に、鳥羽白川には車の遣手といふ者あり雲々、この名おとれり、道恕が香車の説は非なり、