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塵塚談

新吉原遊女衣服の事、延享完延の頃迄は、紗綾縮緬羽二重お著し、中の町へ出る、これお道中といふ、衣服も品々ありて、毎日取替へ著し、同じ衣類は決して著ざりしとなり、さて多葉こお少しづゝ紙につゝみ、禿に数多く持せ、茶屋にて一服のみ残りはそのまゝ、茶屋にさし置て立なり、たち寄茶屋毎に右のごとし、〈○中略〉然るに遊女ども三四十年以来、羽二重紗綾等は更に用ひず、錦繡の如き美服お著る事になりぬれど、たゞ一つにして中の町へ出るに、毎日同じ物お著し、著替へは一つも持ざるよしなり、たばこなども高価の物お用ゆれど、少しも人に呑する事なし、時勢の然らしむるの人情、かくいやしくなれり、