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嬉遊笑覧
九/娼妓
吉原遊女の詞一種ありて、他に異なるやう也、故に徒流がなんせ、しんす、りんすなどお初めとして、余国に聞ざる言葉多し、奇語と雲へり、おもふにこれもと島原詞の名残なるべし、浮世物語一、島原の処に、谷の戸出る鶯の、初音おぼろの声お出し、又きさんしたか、はやういなんし雲々、その盃、これへさゝんせ、ひとつのまんしなど見え、又一代男〈六〉、島原詞に、有ますといふべきお、あんすと雲へり、吉原詞の末おはぬるは是なり、然るに元禄中、由之軒がかける誰袖海に、吉原ことば、ふつゞかなることおえり出て記しゝ処、呼でこいといふことおよんできろ、いてくるおいつてこひ、急げおはやくうつはしろ、ありくおめよびやれ、そふせよおこうしろ、おそはるるおうなさるゝ、腹の痛むおむしかたい、しやんなおよしやれ、こそばいおこそぐつたい、女郎のよこきるおてれんつかふと雲、是は唐音なり雲々、おさらばえ、さうさ、かうさ、おつかない、さうすべい、所がらとはいひながら、島原の心では、さてもうつくしい顔して、けうこつな物いひとなん、