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嬉遊笑覧
九/娼妓
揚銭多く負て返すことのならぬおば、桶ふせといふことすといへり、似せ物語に、男女のうなづき合て走らむとするお、長聞つけて、男おばつけとゞけしければ、たばかりて、くらにこめて、しばりければと雲々、此ころは桶ふせなどは未なかりしにや、完永十九年、吾嬬物語、やかれつゝかねのあるほどとられんぼ後はかならず桶ふせとしれ、了意が浮世物語に、その外あげ銭につまりて、桶ふせとなり雲々、江戸土産咄、つひには吉原にて桶ふせになり、やう〳〵友立のかげにてのがれかへり雲々、箕山雲、挙銭お負たる者おとらへて、入湯桶お打かぶせ、銀お受合する事なり、昔はたまさかに斯ることも有もやしけん、今は名目のみ有て、かやうの仕業はなし、当時は銀お負たる者の忍びて来るおみ付れば、とゞめて帰へさぬ廓法なり、〈万治完文には最早なきことなり〉