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紫の一本

赤坂
赤坂裏伝馬町へ出たるに、下町めつた町からくる比丘尼、風流に出立にて、菅笠のうち、〈○中略〉陶々斎町家へ入て、知る人および出して、様子お聞ば、めつた町よりあまた来る比丘尼のうちにても、永玄お姫お松長伝と申候が、援元で名取にて候、揚屋は仁兵衛安兵衛と申候がきれいにて候、今の小袖かたびらは宿へつき候とぬぎ捨て、明石ちゞみ絹ちゞみ白さらしうこん染めに、紅袖口うらえりかけ黒繻子茶繻子、はゞ広帯黒羽二重の投頭巾、又は帽子でつゝむもあり、小比丘尼どもに酌とらぜ、市川流の夜終、もしほ草の大事のふし、ね覚さびしききり〴〵す、ながき思ひおすがの根の、思ひ乱るゝ計りにて候といふ、