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足薪翁之記

十筋右衛門〈並〉総右衛門
十筋右衛門は人名にあらず、髪の毛のすくなき事おいふなり、〈○中略〉右衛門といふには、何の意もなく、唯十筋ばかりといふに添たる詞なんど、少し嘲る意はあるか、今の世にかゝ〈あ〉左衛門、うんつく太郎右衛門などいふに合せて知るべし、辻君の事お江戸にて夜鷹(〇〇)といひ、上がたにて総家(〇〇)、また総右衛門(〇〇〇〇)といふも、総は総家の一家お取り、右衛門は例の嘲りて添たる詞なり、黒川道祐が遠碧軒記〈延宝年間筆記〉に、世俗にそうえもんといふ遊女の事は、総家といふお誤ていふなりと記したるはわろし、