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完天見聞記
吉田町に夜鷹屋といふ有て、四十あまりの女の、墨にて眉お作り白髪お染て、島田の髷に結び手拭お頬かぶりして、垢付たる木綿布子に、おなじく黄ばみたる弐布して、敷ものおかかへて辻に立て、朧月夜にお出〳〵と呼声いとあはれなり、予〈○未詳〉が幼き頃まで、情お売こと廿四文にして、数け所出しが、今は其出る所少し、姿も昔とかはり、襟に白粉おぬり、顔は薄化粧して、髪に裁などおかけ、古き半天お著て、古き縮緬の二布したるあり、風俗奢てよりは、価も百文二百にもなりたるとぞ、