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更科日記
麓〈○足柄山〉にやどりたる所に、月もなくくらき夜のやみにまどふやう成に、あそび三人いづくよりともなく出来たり、五十ばかりなるひとり、二十ばかり成、十四五なると有、いほのまへにからかさおさゝせてすへたり、おのこども火おともして見れば、むかしこはたといひけんがまごといふ、かみいとながくひたいいとよくかゝりて、色しろくきたなげなくて、さても有ぬべきしもづかへなどにてもありぬべしなど、人々哀がるに、こえすべてにるものなく、空にすみのぼりてめでたくうたおうたふ、人々いみじうあはれがりて、けぢかくて人々もてまうするに、こしくにのあそびはえかゝらじなどいふおきゝて、難波わたりにくらぶればと、めでたくうたひたり、みるめのいときたなげなきに、こえさへにる物なくうたひて、さばかりおそろしげ成山中にたちて行お、人々あかず思ひてみななくお、おさなき心地には、まして此やどりおたゝん事さへあらずおぼゆ、