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嬉遊笑覧
九/娼妓
下学集増補、窄乾口号に、呼無心若衆雲ーーともあり、おもふに、本邦にては、其始法師のもてあそびより事起りしならん、中ごろまでも、俗間には希なり、〈○中略〉僧家は勿論、俗間には、永禄の頃より、元禄の頃まで、わきて甚しきやうにて、彼桃お分ち、袖お断けむは物かは、家お亡ぼし、身お失ふ類、種々の草子どもに多くみえたり、古くは田楽、後は猿楽の役者どもに、男色もて行はれたる者多し、今め芝居役者もおなじ趣なり、今俗お釜と雲、いつより此ことなりしにや、本朝俚諺、〈正徳四年〉本国の俗、妻お呼で阿釜と雲、拠あり、酉陽雑俎雲、王生善と、有賈客張瞻、将帰、夢炊臼中、問王生、生曰、君帰不見妻、臼中炊無釜也、瞻帰妻已卒、かくいへれば、其心いまだ若衆のことにはいはざりしことしるべし、