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古今薯聞集
八/好色
紫金台寺御室に、千手といふ御寵童有けり、みめよく心さま優也けり、笛お吹、今様などうたひければ、御いとおしみはなはだしかりける程に、又参川といふ童初て参じたりけり、筝ひき歌よみ侍りけり、是も又寵有て、千手がきらすこしおとりければ、面目なしとや、退出して、久敷参らざりけり、或日酒宴の事有て、さま〴〵の御あそび有けるに、御弟子の守覚法親王なども其座におはしましけり、千手はなど候はぬやらん、召て笛ふかせ今様などうたはせ候はゞ、やと申させ給ひければ、則御使おつかはしめされけるに、此程所労の事候とて参らざりけり、御使再三に及ければ、さのみは子細難申て参にけり、けん紋紗の両面の水干小袖に、むばらこき雀の居たるおぞぬふたりけり、紫のすそごの袴おきたり、ことにあざやかにさうぞきたれども、物お思入たるけしきあらはにて、しめりかへりてぞ見へける、〈○下略〉