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嬉遊笑覧
五/歌舞
風流徒然草に、中村勘之丞の手舞の中に、てぶりのよき事おえらびて、えがほのおかつといひける女に教へて、後に佃とめけれど、人みなおどり子とぞ雲ける、おかつが妹松野といひける、此芸お続り、是舞子の開山なり、折ふしのはやり歌おわけて謡ふ、其後かめやの小三郎、多くのおどり子供お取たてたり、かまはらひお梅が、鈴のふりもあり、水木おはるに教へけるとぞみゆ、是かの志賀山の始なるべし、色芝居に、舞子おいふ処、水木が七ばけ、沢之丞が浅間の怨霊、こんくわいの、鑓おどりのこ、恐らく知らぬ事なき番数に、いかさまよき鳥、のかゝれかしと、此親が願ひも至極ながら雲々、五元集に、青山辺にて、踊子お馬でいづくへ星は北、といふ句あり、馬にて迎ふるおいふなるべし、借駕籠制禁の頃とみゆ、此踊子といふもの、始終絶ずして、後は名のみにて、踊りはせず、それより芸者といふ事になりぬ、明和安永天明の頃、女芸者はやりて、江戸端々、遊所はさらなり、いづくの町にもなき処なかりしとぞ、