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当道要集
法の次第
一総撿挍は、表に築地おつき、門作、広間、破風かけ狐戸つりたる家に可住事、但借家は別段の事、
一総撿挍、末後に及、息未絶内に、守宮神、代々の日記什物共二老へ相渡し、両職事礼儀おなし、時の二老三老まで可有案内三老より以下の撿挍勾当は、聞付次第、新総撿挍へ樽納可有一礼事、
一新二老三老へも、樽納可有二礼事、
一新総撿挍より伝奏への礼物、座中より出職ひらきは総撿挍自分可為操事、
一職事お置は、先品お改、万事依怙最負なく、万物押領私曲すべからざる起請文お書置べし、
一総撿挍へ久我殿より案内ありて、平家御所望の時は、一方より壱人、八坂より壱人、長柄にて出仕、装束しきしやう、並両職事共に可出仕、時に仍勾当も出仕す、装束しきしやう、になひに乗、
一総撿挍者、山城之国中お不出、上様は各別なれば伺公猶と議定して、伊豆総撿挍の時より何方へも伺公有之事、
一退散の時、五老迄は総撿挍座お立送、撿挍成之刻も可為同前事、
一総撿挍銭湯へ不可入、但し留風呂は不苦事、
一総撿挍町家へ不可出事
一総撿挍よりの使者は、勾当四度たりと雲とも、座お立可送事、
一新撿挍の時、総撿挍二老三老樽納事、
一せき名三代に不越、名字はせかず、但総撿挍の名は末代せくべし、名人の名に准事、
一総撿挍障有れば、職事名代の御礼申上事、
一遅参致ば、総撿挍二老三老迄呼懸可有礼事、
一職開召物三季お過すべからず一弟子の同宿其身の弟子成共、ほう〈○法也、当作はふ、〉する事あるべからず、坊主よりほうすべし、坊主へ届なくしてほうせば違乱有べし、並同宿離れたる人成共、学文所坊主より総撿挍へ断なき以前に弟子にすべからざる事、
一総撿挍たる人、ころも計に而対面するお不可改、但別当撿挍成者衣袴著て請取べし、寄合の出仕も同前、樽びらき其外大勢連座の時も、衣ばかりに而出座可有事、
一同宿堅類に総撿挍に不対面内の約束は不立事、
一卯の刻より酉の刻迄法事すべし、酉の刻過而法事す、但撿挍は戌亥迄ほうす、
一名代に而法事の時、其使の官より下官ほうせば請取べし、使より高官法せば違乱可有事、
一打掛の法事切紙に而遣の使者に袴著すべき事、但伊豆総撿挍の代より初る、
一二季の塔召物たりといふとも、総撿挍障あらば可有延引事、
一二季の塔召物の曾所、総撿挍の宿所より方拾丁外へ不出、総撿挍出仕の規式落縁迄輿に乗て、縁よりおり、直に上座へ付、時お不移、職事高声に一座へ案内す、其節頭人座お立、総撿挍の前へ出、謹而礼おす、其後二老より次第々々末座まで、総撿挍へ一礼可有事、
一しきしやうの塔には、総撿挍より末々撿挍まで、装束素絹練袴帽子、勾当は色衣紗文に而出仕、紫お不著、但帽子紗文は、十月朔日より明年四月八日迄可限事、〈○中略〉
一総年行事慥成人お指て、勤さすべき事、
一年行事渡しに未進不可有事
一名代にて役は可勤、名代の名代は不成事、
一他門の輩指南せば、其坊主の方より断有て教べし、坊主より理無に相対而、琵琶平家教事おせず、八坂方、一方は有無に不拘不可習教事、一師弟の中に公事有間敷事
一兄弟共に壱人の弟子に仕間敷事
一弟子同宿坊主有内に、同宿持間敷事、
一地神経読盲目、当道に伏して官位進ん者、二度の中老引迄免すべし、大衆分より迄はゆるすべからず、但地神おかけず、当道計お立ば高官おも可免事、
一坊主持の撿挍勾当、四度迄は我弟子たりといふ共、官途致ば、坊主の帳面に付べし、仮にも我弟子と日記に不可付事、
一坊主の借物は弟子可無事
一山城一国の外へ出ば可請暇事
一縁日に物詣すべからず、但加茂稲荷祇園三社は、縁日不可憚事、
一同宿堅にて首の作法にてすべし、そくたくにてかたむべからず、同宿離も総晴可為已後事、
一官銭お取遣之刻、むかしより今迄のごとく金銀にてとらば、其日記よせ本より取べし、式事並隻人抔出て、私に米かなたこなたへの取あつかひすべからず、日数不定可為六拾日、
一米座之外の若に預而後有間敷事
一舞々猿楽等の跡は、道お捨て二代経ずしてはまじろうべからず、但ひこより免す、
一いやしき筋有者の芸仕たる跡、不改して当道の芸不可仕事、
一いやしき筋有者住たる家屋敷、当道の方へ直に不可買取、家主一人隔不苦、
一いやしき筋有之の子、養父母お取、他名に成出家しつる者には交合しても不苦事
一撿挍は四度の座頭迄下馬す、勾当は大衆分迄下馬す、其外下官の者は笠お取沓お抜、礼おなすべし、一当道たる者、さすがも指べからず、
一京の口々へ番お付、登衆剥不可取事、
一官の為諸旦那へ勧進したる輩、官位すゝまで有間敷事、
一不可悪口事
一不可狼藉事
一在京したる撿挍勾当の家にて、自身売買仕間敷事、
一科有て不座の輩に不可交合事
一他門の公事不可取持事
一他の弟子不可取事
一伺官たりといふとも、長柄乗馬にて其門辺は一礼申可通、但長柄撿挍際権勾当以下乗間敷事、〈○下略〉