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世間母親容気

按摩車廻りのよき万菊婆
眼のなき人も撿挍勾当になれば、官銀の割にて十三人口緩々と暮し、家蔵お構へ、貸金の利お楽しみ、其子は歷々の町人と成て、両眼は明ながら、使果して仕まふ類多し、眼のある出家、然も瞳玉お引くり返して、学問しても誰殿の養子と雲はれねば、僧正には任ぜず、僧正に任ぜざれば、紫衣は猥りに著られぬ事なるに、後小松院より、玄正といへる盲人に御免ありしよりこの方、総撿挍の、紫衣は珍らしからぬ事に成たり、実にも世間は目明千人盲目千人にて、何が産業になるまじきとは雲はれず、〈○下略〉