[p.0991]
謡曲
望月
〈狂〉是成人達はいかなる人にて候ぞ、〈して〉さむ候、是は此宿〈○近江守山〉に候めくらごせ(〇〇〇〇〇)にて候、加様の御旅人の御著の時は、罷出て謡ひなどお申候、御前にてそと御うたはせ候へ、〈○中略〉 〈女〉一万箱王が親のかたきおうつたる所お謡ひ候べし、〈○中略〉夫かれうびんはかいこの内にして声諸鳥にすぐれ、しといふ鳥はちいさけれ共、虎お害する力あり、援に河津の三郎が子に、一万箱王とて、兄弟の人の有けるが、〈同〉五つやみつの比かとよ、父おいとこに討せつゝ、既に日行時来つて七つ五つに成しかば、いとけなかりし心にも父の敵おうたばやと、思ひの色に出るこそ実哀にはおぼゆれ、〈○下略〉