瞽幻書

寺社御奉行松平和泉守殿〈江〉指出候書付之写
延宝弐寅年、地神経之山に入の時、於江戸、香坂殿願口上書、金山坊返答書、並岩船殿香坂殿並遣答付紙、従御公儀被仰渡之書付之写、香坂口上之覚、
一西国筋、取分九州に多罷在候、竈祓の盲目、是お地神経座頭とも申、又は三座頭上座頭とも申候、讃部経、地神経と申候得共、ほきにふしお付、琵琶に乗竈お払申候、装束は直垂の様成ものに紋所お付著用仕候、中にも頭分の者は、十徳の様成者お著用仕候、又国官途と申候て、其国其所にて作居おのれ〳〵が類参加はり、官途仕候事、
一右の盲目共、根本は、此方仲け間より出たるものとは聞へ候得共、聢と仕たる証文無御座候故、古今其分にて差置申候、作去、完永十九年、肥前の国に於て、彼者共奢候、仍而御方仲け間の者と異論お起し、公事に及び候所、彼者共非儀に落申候に付、其所之撿挍山野下知お以、地神経の頭分、金剛院並中持と申盲目両人、死罪に申付候得共、何の宗門より、何の断も無御座候得共、又完文年中に周防長門にて、かの盲目共、此方仲け間の礼お以、往来可仕由、何用違乱申に付、奉行被申候者、其方にも慥成系図候哉、出候得と被申付候得共、系図に似たる物も無御座候に付、右之違乱申棟梁お、大膳殿御領分の島〈江〉御流候に付、残る者共、皆此方仲け間の下知に随ひ申候、此節も何方よりも何断も無御座候、然ども他門にあらざる処、分明に御座候歟、一筑前国より、廿け年程以前、彼盲目共、古来例無之新法お起し、四人連に而叡山〈江〉罷登、正覚院〈江〉たより、或は後生菩提の為、或は天台末流之由、色々虚言申、金銀お出し袈裟衣のゆるし請申度由、歎き申に付、正覚院は、彼盲目共の由来、委鋪不被存故、為結縁許し申候が、扠彼盲目ども、己々の在所〈江〉罷下り候得て、今度叡山登り官途仕、袈裟衣お被召、正覚院の御判お戴候迚、仏説盲目僧の撿挍と名乗、不似合結構成袈裟お著し、大奢申事、不大方、是お手本に致し、近国の盲目共、追追叡山〈江〉罷登、皆々袈裟衣お被許申候事、
一彼盲目共、隻今は、往古より、天台末流の由申候得共、廿四五年以前迄は、国々所々にて、宗門改の節、差出し候宗旨手形、まち〳〵に候得き、然者往吉より、天台派と申候は、大成偽に而御座候、又叡山金山坊より、九州筋方々〈江〉参候参中おも、彼盲目共、先規より、天台の様にもてなし、平家座頭、仏説盲目僧、各別の事、其上、又正覚院より、袈裟衣被免候事も、数十年久鋪様には申候得共、才に廿年程以来之義に御座候得ば、新法紛無御座候事、
一彼盲目共、唯今の有様は、装束は、漢土の織物仏説盲僧之撿挍と申積塔の義お取行、諸芸も此方仲間の真似お仕ながら、格別の様に申なし、此方譏り慢じ、剰此方の弟子大に集申候条、迷惑仕候事、
一彼盲目共には、日々威勢付、此方は次第に衰微仕候義、誠に正覚院、彼盲目共往古より、天台末流の由来、慥に御座候に於ては、彼盲目共、向後、撿挍の名乗おやめ、装束等諸芸にいたる迄、此方仲け間に不紛様に、急度差別お被立候歟、若又、往古より、天台振の由来、慥成義無御座候はゞ、殊に新法と申、傍以、正覚院より、向後構不被申候様奉願候、且又九州所々の留守居衆〈江〉被仰付面々、於領分彼盲目共、前々の如く非法仕、新法お立奢不申候様、被仰付被下候はヾ、撿挍座中、何れも難有可奉存候、以上、 九月十一日