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撰集抄

大江貞基入唐求法事
むかし大江の貞基(〇〇〇〇〇)といふ博士ありけり、身は朝に仕へ、心は穏に有て、常に人間の栄耀は因縁あさし、林下の幽閑は気味ふかしと思ひとりながら、さるべき縁にあはざる程に、もとゝりおさゝげて世の中に交て侍りけるが、年比さりがたく覚えける女の身まかりけるより、ふつに思ひとすて、清水の上網と聞え給へりし智者の御もとへ行て、かしらおろし戒うけ給へりにける、〈○中略〉扠も大江の入道、かしこき智者どもにあひ給ひて、実の道おさとりきはめ、世おいとふ心のいやましにのみなり行まゝに、何となくもろこしへわたらまほしく覚へて、両三の同朋さそひつれ給ひにけり、〈○下略〉