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古事談
一/王道后宮
一条院御時、長保比、右中将成信(〇〇)、左中(少い)将重家(〇〇)、同心示合出家、発心之根元、有仗座定之日、両人立聞之、二条左大臣一上にて、中納言面々吐才学けるお聞て、致奉公昇進せんと思ひけるは、身の恥お不存なりけりとて、共に出家雲々、先到霊山寺、剃頭之後、共至三井寺雲々、或説、於三井寺慶祚阿閣梨室剃之雲々、行成卿夢に此重家可出家之由談給と見て、御堂之御許に詣進て、かかる夢おこそ見侍つれと談給ければ、少将打咲て、まさしき御夢にこそ侍なれと答給て、翌日剃頭雲々、或説雲、此両人三井慶祚の室に往合んと契りたりけるに、中将はとく往て待給けれど、夜ふくるまでにみえざりければ、自猶預事などあるにやとて、先出家して暁帰らんとするとき、少将は霜にぬれて来たりけり、中将新発いかにやよべば待かね申てなん、先遂侍りにしと被示ければ、親にいとまこはぬは、不孝之由承ば、伺侍しに、昨日しき便宜あしき事侍て、暮にしかば、日おたがへじとて、よべ髪おば切侍なりとぞ被答ける、