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宝物集

常磐丹後守為忠朝臣の子どもこそ、三人ながら道心お発して、出家遁世して山住し、大原にこもり、霊山に居て侍りけれ、行ひの間には、和歌の道おも、未だ捨あへず、やさしき物から、其心の程貴くぞ覚へける、伊賀守為業(〇〇)は、法名寂念也、霊山に籠居て、角ぞ読る、
春来も問れざりけれ山里お華咲なばと何思けん、長門守為経(〇〇)、法名は寂超也、比叡山にして角読ける、
山賤(やまがつ)と成ても猶ぞ郭公鳴音にあらで年もへにけり、壱岐守頼業(〇〇)は、法名寂然也、大原に籠居て読る、
ちりつもる紅葉わけてよそに見ば哀なるばき庭の面影、