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近世奇人伝

桃山隠者(〇〇〇〇)〈附高倉街門守(〇〇〇〇〇)〉
いかなる人といふことおしらず、伏見桃山に乞丐のごとく、わらむしろおもてかこひたるものして住人あり、いかにしてたよりけん、稲荷羽倉氏のもとにて書おかりて見ることつねなり、つひに名おいはず、そこにて身まかりし後、いとさはやかなるさましたる士、供人など供したるが、羽倉氏に来りて、其人の臣なるよしいひて、生涯の恩お謝しけるとぞ、いとあやしきことなり、今は八九十年前、三条高倉街の門お守ける化子も、夜時お擊間に、その小屋に書お高くつみて、おしまづきにかへ、書お見居りけるが、これは迎るもの不意に来りて、しひて伴ひ帰りしさま、いときらきらしかりしと、其街の人、老の後に語られし、相似たることなり、