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器用は器物の総称にして、邦語に之おうつはものと雲ひ、又調度若しくは道具とも雲へり、凡そ器物の用たる、其範囲極めて広く、悉く之お載するに堪へず、今此部門には、専ら飲食、容飾、澡浴、家什、屏障、坐臥、灯燭、行旅の諸具、及び輿、車、船舶等に関するものお収め、其余、度、量、権衡の類は称量部に、文房具は文学部に、兵器は兵事部、武技部に、祭具は、神祇部に、仏具は宗教部に、農具、工具は産業部に、楽器及び遊戯具は楽舞部、遊戯部等に分載せり、他は類推して知るべし、
飲食具は飲食に必須なる器具お謂ふ、飲食物お盛るには盌、盤、鉢、銚子、盃の類あり、其之お安置するには机、台盤、折敷、膳、盆の類あり、鍋、釜、俎、庖丁等は、専ら調理の用に供するものにして、瓺(みか)、瓼(さらけ)、壺、瓶、樽等は、多く貯蔵の用に備ふるものなり、其他飲食に要する器物の種類甚だ多し、盌は又埦、垸、椀、梡、碗、碗、鋎等の字お用いて、まり又はもひと雲ふ、後には音読してわんと雲ふ、此中にて碗鋎は古は金玉の器にのみ用いしが如し、故に多くかなまりと訓ぜり、而してまりと雲ひし名は、中世に至り漸く亡びて、かなまりの名のみ存せり、其もひと雲ふは、水お盛る器お称するなり、盌は又御器とも雲ふ、因て字或は五器に作る、
茶椀は始め茶お盛るに由りて名お得しものなれども、後には汎く陶器お称することヽなれり、其一転して飲食具にのみ称するに至りしは、恐らくは近古の事なるべし、而して此に飯お盛るは極めて後世の慣習に出づ、〈茶湯に用いる茶椀の事は、遊戯部茶湯篇に在り、〉
葉椀はくぼてと雲ふ、其状の凹みて深きに由れり、原と木葉お縫ひ合せて作りしものなれども、後には多く陶器お以て之お製す、
葉盤はひらでと雲ふ、葉椀おくぼてと雲ふに対したる名にして、亦木葉お以て製す、或は一葉お用いるあり、或は数葉お縫ひ合はするありて、其葉は多く柏お用いる、
盤は字又槃に作り、さら又はばんと雲ふ、然れども後世は多く皿の字お用いてさらとのみ雲へり、
合子はがふしと雲ふ、蓋お具する椀の称にして、其数箇お組入るヽものお引入(ひきれ)合子と雲ふ、楪子は即ち畳子なり、旧くうるしぬりのさらと雲ひ、後に之おちやつと雲ふ、多く僧家に於て用いしものヽ如し、豆子は俎豆の豆の類なり、
托子はたくすと雲ふ、又茶托と雲ひ、茶台と雲ふ、
茶盞室はちやわんいれと雲ふ、又納盞筒の字お用いる、茶椀お納むる筒なり、
鉢おはちと雲ふは字音なり、又砵、〓の字お用いるは我邦の製字なり、其形状は深き皿の如くにして、食物お盛る器なり、元来鉢は、仏家資具の一にして、具さには鉢多羅と雲ひ、又跋多羅と雲ふ、即ち印度語にして、鉢と雲ふは其略語なり、翻訳して盂と雲ふ、支那にては古くより其製に効ひて、普通の食器と為しヽが、我邦にても漸次に類似の器お作りて、食物お盛りしより、遂に一般の食器となれり、其質には金器、漆器、陶器等ありて、其美なるものに至りては、錦出、金襴出等あり、
箸ははしと雲ふ、食物お口に伝ふるものにして、竹木お削り、又は金属にて作り、二本お以て一具とす、真魚箸は食物お調理する三用いる、
匙はかひと雲ふ、食物お抄ひ取るに用いる、其質に金器あれども、多くは木器なり、
杓子は匙の類にして、多くは木お以て製す、貝殻に柄お施したるお貝杓子と雲ふ、
串は竹又は金属にて作り、食物お貫きて調理するの具なり、
机、台盤、台、懸盤、膳、折敷等は皆木器にして、漆器なるあり、木地なるあり、蒔絵お施せるあり、胡粉お以て画図するあり、又形状に大小ありて、脚あるあり、脚なきありて一ならず、
瓺はみかと雲ひ、瓼はさらけと雲ひ、甕はもたひ、游堈はゆか、平瓫はひらか、缶はほときと雲ふ、並に瓦器にして、用法に従ひて各〻其形状お異にせり、而して此種の瓦器には、古来文字の用例一ならず、彼此混淆して識別し難きものあり、
坏はつきと雲ふ、土器にして、筥坏、齏坏、汁漬坏、片坏、窪坏等の別あり、又高坏あり、高坏は坏に台お加へて高く造れるものなり、酒坏の事は下に言ふべし、
樽は初め字音にて称せしが如し、後にはたると雲ふ、木お以て作り、竹箍お施し、酒等お容るるに用いる、樽には指樽、扁(ひら)樽、手樽、柳樽等あり、指樽は箱に似て横狭なるお雲ひ、扁樽は桶に似て小なるお雲ひ、手樽は樽に両手ありて長きお雲ひ、柳樽は柳木にて作り、手樽に類せるお雲ふ、
酒海は樽の類の如けれど、其製詳ならず、櫑子も亦酒器なれど其製詳ならず、
銚子はさしなべ、又はさすなべと雲ひ、字音にて、てうしと雲ふ、鍋に口及び柄あり、初は上に鐶あり、鐶は蓋し提梁ならん、後には提梁なし、茗お煮、酒お温め、又酒お注ぐ等に用いる、
提子はひさげと雲ふ、銚子の柄お去りたる如きものにして、長き口あり、鉉ありて、提持するに便にせり、瓶子はへいじと雲ふ、金器あり、多くは陶器なり
吸筒はすひづゝと雲ふ、又単に筒とも称す、竹筒お用いる、瓢箪は瓢の内実お去りたる物なり、並に酒お入れ又は酒お注ぐに用いる、
間鍋、ちろり、徳利は金属或は陶器お以て作り、酒お温め或は酒お注ぐに用いる、
盃はさかづきと雲ふ、酒お盛る坏の義なり、又盞、觴等の字お用いる、多く土器にて製するによりて、又かはらけとも称せり、土器の外に金器あり、漆器あり、陶器あり、珠玉あり、獣角あり、介貝あり、其美なるものに至りては、漆お髹し、金銀お粉末として蒔絵お施す等の巧あり、酒台子、盃台は酒盃お載する器にして、台盞は原と盃の余滴お棄つる具なれども、亦盃の台に用いたり、
棬はさすえと雲ふ、木お曲げて作りたる物にして、盃の類なりと雲ふ、
笥はけと雲ひ、行器はほかひと雲ふ、並に飯お盛る器にして、破籠(わりこ)、重箱、折(おり)、物相(もつさう)、面桶(めんつう)、弁当等は、多く外出旅行の際に用いる具なり、
鍋はなべと雲ふ、始め専ら金器お用い、かななべと称せしが、後に磁器お以て製するあり、之お土鍋(どなべ)と雲ふ、並に飲食物お煮るに用いる、鉉お施し、又蓋お用いることあり、
釜はかまと雲ふ、飯お炊き湯お沸かすに用いる金器なり、古へ之おかなへと称せしも、亦金器の意なりと雲ふ、
擂盆はすりこばちと雲ふ、磨粉鉢の義なり、又すりばちと雲ふは略言なり、内部に線条お刻せる焼物の鉢にして、食物お研りて粉末にするものなり、其粉末するに用いる棒お擂木(すりこぎ)と雲ふ、其材には松、柳、桑、山椒等お用いる、