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譚海

大坂鴻池なるものゝ家に、名物の青磁の皿壱枚あり、同人ある日二三輩同道して、生玉の酒屋に遊びたるに、料理に出せし皿の内に、此名物の皿と同様の物あり、少しもたがはず一座嘆美せしに、鴻池なるもの此皿お亭主に懇望し、金三拾両出しもらひうけ、即座に金子相渡せし所にて、皿おば打砕き捨たり、同伴のもの驚き恠て子細おとひければ、此皿我等家に所持と毫末違ふ事なし、我等所持の皿は世上に人のしる所なれば、同様の物二つ有ては、われら所持の名お滅する故、くだきすてたりと雲り、