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東雅
十一/器用
箸はし 倭名抄に、著ははし、字又作箸、唐韻に、著は匙箸也といふ、匙かひ、兼名苑に匕一名は匙といひ、説文に、匕は所以取飯也と雲ふと註したり、箸おはしといふは觜也、其食お取る事の、鳥觜の如くなるおいふなり、又はしとは端也、古には細く削れる竹の中お折屈めて、其端と端とおむかひ合せて、食お取りしかば、かく名づけしなり、猶弓の弰、箭の筈おはずといふが如しといふ也、かひとは古語に物の柄お呼びてかひといふ、匕匙飯匙の如き並にかひといふも其義也、〈古の時に、箸竹幾株など雲ひしは、今の如く二筋おもて、一前などいひし如くにはあらず、細く削り成したる一筋お、中より屈めて、その両端お対して、食お取りたるなり、万葉集に見えし弟の挽歌に、父母が成しのまに〳〵箸向ふともよみ、又今も諺に、箸折り屈めし兄弟なりなど雲ふ事のあるは、古の遺言にして、其本一つなるものゝ相向ひぬるおいふなり、〉