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源平盛衰記
二十六
行尊琴絃附静信箸事
京極源大納言雅俊卿、亭にて講行ひ給けるに、導師は如覚院の静信法印にぞおはしける、諸僧座に著て僧供行はんとしけれ共、導師あまりに遅かりければ待詫て、終に僧膳行ける、中間に法印来り給、遅参お惡みて僧中に導師の箸お取隠す、法印著座して高坏お見れば箸なし、暫打案じて、法印懐より箸お取出して物お拾ひ食けり、何の料に持給ける箸ぞと、上下惡まぬ者なし、誠に優なる用意にはあらねども、遠慮賢くして角用意有けるが、智慧深して、時に臨て化現し給ふか、此人人の事はさも有なん、