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和漢文操
五/容
杓子容 伊東恕世は衣食住の三の中に、食お天として第一となせるは、釈迦孔子の八千余巻も、毛嬙西施が三十二相も、喰はねば面白からぬ故也、〈○中略〉さらや五器、皿のうつは物さへ、万葉の古風には、椎の葉にもるとよみ置しお、東山殿の物数寄より、赤絵錦手の風流にわたる、それが中にも此杓子は、神代に三杵の姿お失はず、蒔絵のさたに及ばぬもたふとし、そののち信長の信玄のと、鑓長刀の骨おおりて、我朝の王道おおさめむとせしに、今は是おもて彼おまねげば、百万の敵おもいやがらせ、遊行はあらめの一杓子に、八十万人おすくひ給ふとよ、しかれば仏法といひ、王法といひ、三種の神器は雲井の沙汰にして、是は万民の重宝といふべし、
註曰、〈○中略〉按ずるに、童の諺に杓子にて人お招げば、必ず死するとて忌む事なり、何の故にや知らず、