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槐記
享保十二年六月十日、今日は関白様〈○近衛家久〉御有気の御祝儀あり、〈○中略〉諸卿よりの献上もの、山おなして火し、仰に、諸方よりの進物も、大やう同じもの也、但し滋の井より参りたるものこそ、故実のものなれ、拝見すべきの由、仰にて拝見す、折櫃二合、一方に餅、一方に干菓子也、仰に、昔は諸卿の集参にて、此折櫃なり、今はめづらしき様也、猶も此上へ平折敷お重ねたるお、つい重ねと雲、今の三宝は、それおとぢつけて、便にしたるもの也、昔は二つものにて、菓子お喰て其折敷お、後へ投て捨る故実也、階などの上より落すは、すらせて音せぬやつになどすることありと仰也、〈聞も及ばぬ珍きこと、世にありがたくこそ、〉十一日、右御礼参上、〈○中略〉昨日の御うわさ也、昨日の献上物の、御裾分お進ぜらる、彼滋野井殿よぞ献上の折櫃おも進ぜらる、皆胡粉にてぬりて、松竹鶴亀お記す、〈○図略〉仰に、古より斯様の器は、大やう胡粉ぬり也、これお様器と雲、漢の名にて候やと窺ふ、和名也と仰なり、銀の略にで、銀様と雲心かと仰らる、