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塵塚談

文化三寅年の冬、小石川橋戸町駿河屋庄兵衛といふ酒四あり、毎冬濁酒お造醸しあきなふ、或時酒庫にて四斗樽の空樽へ、濁酒お充満に入て、酒飲の集る場へ持出し置けるに、暫して酒気沸激し、蓋お吹飛し四中白雨の如くに飛散りて、桶中に酒一滴もなく空樽となりけり、此酒樽の蓋は、いかやうに振動しても、離れぬものなるに、酒気の慓悍の猛なる事お恐るべし、