[p.0205]
玉函叢説

銚子に木草つくる事
いつのほどよりか、世の中のならはしに、銚子に木草などお付る事あり、三月の節句には桃の枝、五月のは菖蒲、九月のは菊の枝など也、年のはじめのいはひには、松竹薮柑子、しだ、ゆづり葉、又は松と薮かうじとのみつくるも、又はやぶ柑子おさりて橘などつくるもあるにや、おほかた年のはじめのいはひのは、人々の家によりてかはれるも有れば、なほぞあるべき、さて三月の節句の、桃の枝お付るは、月令広義に、法天生意お引ていはく、三日桃花お取て酒にひたしてこれおのめば、病おのぞき、顔色おうるほすと見え侍るにや、また五月の節句のは、歳時雑記に、午日菖蒲おとりて纓のごとくし、或は細末にして酒にうかべて、これおのめば、陽気おたすけ、年おのぶと侍り、九月の節句の菊は、西京雑記に、漢のはじめよりありつるよしおしるせりとか、されば此国にも是等の事によりて、其花根などお酒にもひたし、盃にもいれてのむめれば、其折々の草木お銚子にもつけ、万の物にも飾りもて興ずるなるべし、かく是等は本文などもある事なればにや、たが家にもいとしもかはらぬお、正月のなん同じからぬは、本文などもなきなれば成べし、