[p.0234]
風俗酔茶夜談
後八/器財
いま東都太平の御代にうまれて、聖朝の徳化に浴する人のうちにも、えならのものずきする事お、風雅とおぼへたともがらには、人の頭髏もてさかづきにつくれるめくらもあり、かのめくらは、唐詩選のこうしやくする事、仕おぼへたれば、月氏頭にのむといふ詩の語おきゝかじりて、かまくらへゆきける折から、屏風が谷にうづもれたる、北条家の髏骨おひろひきて、きんはくもて、これお装厳し、或る大諸侯さまのやかたへもちゆきて、かの諸侯さまおせこめ奉りて、髑髏杯の酒おすゝめたる時、諸侯さまにも、さすがに完仁大度の御気象にて、めくらがこゝうに、さからひ玉はで、その酒のみ玉ふたれども、めくらが異おこのむに、あきれおはしたるよし、その侯の家につかふる、同学の秋山それがし、かたりきかせ侍りぬ、