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摂津名所図会
二/東生郡
浮獺といふ遊筵の看楼は新清水に隣る、原此名は貝觴の銘にして、其器お見るに、鮑の貝の、十一の穴あるお塞ぎて、酒おこれに盛れば七合半盛れるなり、これお満酌して、飲する人お誉とし、暢酣牒お出し其名お署す、これ風俗なりとそ、由縁斎が、
ひとつなる人に見せばや津の国の難波あたりの浮瀬の月 貞柳
此貝盃の袋は唐織にして、むかし長曾我部元親といふ勇将の陣羽織といふ、又幾瀬といふ貝盃あり、これは鶉貝なり、僅壱合余盛れる、此袋も浮瀬と同じ、あるは銘お鳴門と号して、夜光貝の盃あり、紅毛(おらんだ)わたりの貝巵、銘お春風といふ、君が為、梅がえなどいふ、鮑の酒器あり、