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類柑子

みやこどりの序 僧専吟
なにはあたりの、うつせあはびお、うかむ瀬と名づけて、奇物となせしは、身おすてゝこその、たはれことより出て、遠き境にもしる人すくなからず、こゝに扇徳と雲人、その俤おしたひて、一つの器に盞おしつらひ、硯懐紙やうのものお添て、風騒の人々に句お乞、これおさかなになして、酒の興おあらしめんとす、箱の中の貝なれば、二見のうらなどゝも、よぶべかりしお、都鳥とは、もしむさしの国の名物、京には見なれずとかや、それにしては、ふたつともたよりうすし、たゞ水鳥とのこゝうなるべし、〈○中略〉此比袖のうらといふ盞の、発句お勧進したり、いかならん旅客にや、其貝いまだ手にとらねど、源左衛門〈○扇徳〉が貝よりも、やさしくて、袂より出たるならんと、白ぎくお貝の身にせん袖のうら〈○下略〉