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嬉遊笑覧
十上/飲食
おはら、屠竜工随筆小原女どもの、笠かぶりて、歩みつれたるお、義政の東山より見給ひて、小原盃は作り初られしといへり、此説非なり、大原女お小原女とはいかゞ、笠かぶりては薪おいたゞきがたし、〈但し小原の女といふにや、そは小原女といへることなし、〉凡かさといふは笠のみにあらず、物覆ふおいふ名なり、合子にかさといふも、おほふ物なればなり、〈○註略〉はらとは杯の異名なるべし、事物異名酒盃の条に、頗羅〈頗音坡上声〉と出たり、さりながら常の杯とは異なり、照世盃首巻第一回、阮江蘭接酒在手、見那頗羅、是尖底巨腮小口、足々容得二斤多許、是は中ふくらなる下細き杯なり、群砕錄、不落酒器名、白楽天詞、銀不落従君勧とあれば、不落頗羅一音なり、袁中郎が觴政十三杯杓の内に、黄白金頗羅と有、また帝京景物略、城隍廟市のうり物の内、有倭扇、有葛巴刺碗数珠雲々、また西域双林寺条下に、葛巴刺碗者、解項顱骨、而金絡弁稜、尖如蓮房也、これこゝにていふ仏器猪口なるべし、されば頗羅は異国の碗の名にて、今こつぷといふものと見えたり、こゝにて五山の僧など、酒杯お頗羅といひしより、小盞おおはらといふ事になりしなるべし、