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著作堂一夕話

吉野が伝並蟹の盃(○○○)の図説
中山の色紙、よしの河の裂、解の盃は、よし野廓にありしとき、愛玩せしところ也、今家〈○吉野夫灰屋紹益孫佐野氏〉に存するもの、蟹の盃のみ、予主人に請て一覧するに、白銅の如く見ゆれども、白銅にもあらず、ところ〴〵金の摺はがしありて、すべて金物細工なり、蟹に機関ありて盃お戴ながら、席上お横行す、盃お納るゝ箱に、桃の墨画ありて、琉球画の如く見ゆ、箱のさしかた又古雅也、おもふに是琉球製の酒盃なるべし、この日画工成瀬氏折よく席上にあり、すなはち図して予におくらる、按ずるに、晋書に雲、畢卓常謂人曰、左手持蟹螯、右手持酒盃、拍盤酒船中、便足楽一生矣、古人酒中蟹螯お玩ぶことひさし、