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傍廂前篇
桶 箱
或人雲く、桶と箱とは互に文字お、あて違ひたるなり、桶は竹もてしむる物なれば、竹に従ふべし、箱は木もて造るなれば、木にしたがふべしといへり、これ字おのみしりて、其器のもとおしらぬなまさかしき僻説なり、桶は麻お績み入るゝ器にて麻笥(おけ)といふ、檜の曲物なれば、竹の器にあらず、箱は木なるも、竹にてあみたるも、葛もて組みたるもありて、一様ならず、古書、古画にあまたあり、実おしらずして、推量の理屈だては拙くうるさきものなり、