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兎園小説
十一集
丙午丁未
明くれば七年〈○天明〉丁未の春より米穀の価登躍して、はじめは銭百文に白米六合お換ふと聞えしが、五合に至り四合に至り、五六月に及びては三合になるものからそれすら買はんとほりするもの容易くは得がたかりき、〈○中略〉豪家と唱へらるゝ三井越後の呉服店、糸店、両替店、ともに琉球芋お多く蒸して、半切の桶(○○○○)に入れ、店の四隅便宜の処にすえ置きて、十五歳以下の小厮の走り廻りおするものに、資にとり啖せしかば、日毎に穀おはぶきしこと、大かたならずと聞えたり、