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宝蔵


生老病死は、御ほとけもまぬかれ給はぬ道なり、さればしらざるお愚なりとし、しりてなげくも弐に愚なりとす、あら玉の年立かへる朝には、若水桶(○○○)に千世おむかへて、去年もめでたし、今年もめでたし、めでたし〳〵といひかさぬれば、いつそのほどにわがくろかみも、白川のみつはくむまで老さらぼへり、せめてはさあるのみか、棺桶にうつろへり、棺桶も猶此世の姿おのこせるに、程なくけむりともえはてゝ、思ひもつくる灰のうちよりひろひ出て、骨桶におさめらるゝぞいとはかなき、かねてかゝる理おしらましかば、など世お鰭桶(○○)のなれ過、砂糖桶(○○○)のあまくのみやは心得ん、ちよのふがいたゞく桶のそこのけて、みづたまらねば月も宿らずといへるこそいとおかしけれ、水たまらずんば、いかでか月もやどる事あらん、そこぬけたらましかば、いかでか水のたまるべき、そも又水はたがためにかくみ、桶はまたたが為にかいたゞける、ちよのふはまたこれたそ、
ぬけし話(わ)やそこなき桶の水の月
汲湛否否水汲桶 水在青天月在輪 水在桶月在青天 元来不識月与桶