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宝蔵

飯釜
天竺には味の最上お醍醐味といひ、大唐には大牢といへり、我朝にはいづれおかいふ、わが橋おき藜おくらふ、ふつゝかなる心には、たゞ朝な夕なのいひおこそ覚侍れ、其物おかしぎ出せる器なれば、いかんぞたゞにおはすべき、さればにや天帝郭巨が孝おあはれみて、あたへ給ふにもこれお以てせり、たま〳〵月夜にぬかるゝものあれば、世のうつとりのためしにひけり、伝へ聞、周の鼎、漢の鼎などいひて、両耳三足五味お和する重器たりといへど、まのあたり見ぬものなれば信じがたくて、かの聖の御代に、三年のみつぎものゆるし聞え給て、民のかまどはにぎはひにけりと、つらね給ひしも、今此飯けむりの事よとゆかしくて、〈○下略〉