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宝蔵

火吹竹
糸あるならしものお弦といひ、竹もてつくれるふき物お管といへり、そのかみ伶倫竹お嶰谷にとりて、六呂六律おわかてり、簫有竽有篳篥有、それより下つかた雲雀笛の雲居に聞え、鹿笛の野山にわたる、みな呂律の声にもるゝ事なし、猶こゝに一本有、そのもの竹に大小のえらみもなく、ふしに多少のさだめもなく、きるに寸法もなく、たゞ一穴お以てしるべとして、其ふく事いとやすし、われ心みにこれお論ぜむ、万のふきものは声に軽重おなし、指に抑揚有て、習ふにかたく、忘るゝにやすくして、しかも其声余所のきゝおよろこべるものにして、みな人心の私より出るに似たり、しかるにこのものさのみ心お用ゆる事なく、たゞ通れるお以て其用となせば、道人の心にこそ類し侍れ、況や南郭先生は、空ふく風の万の物にふれて、声あやおなせるお、みな地籟と聞なし侍れば、なんぞ此もの楽器たる事おえざらんや、
春風やまだしき花の火吹竹
稿木折焼活死灰 道人凱惡接塵雉 空虚胴際気従踵 知是仙家丹竈財