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江戸名所図会

古製山葵擦此地〈○青戸村〉の農民茂右衛門といへるもの是お持伝ふ、賞すべきものにもあらざれど、たゞ上古質朴の風俗お想像にたれり、依て其図おこゝに挙るのみ、〈○図略〉土人此器お青砥左衛門〈○藤綱〉が工夫に出たりと雲伝れども、其可否は論ずるにたらず、今も野州辺の農家、是お用ゆるものあり、其図左のごとし、
全形図のごとく杉おもつて製す、竹の厚きお鋸の歯のごとくにして、夫お横の板へ切はめ、横板の上より同く竹の縁お打付て、動かぬやうにしたる物なり、或人の説に、菖蒲革に かくのごとき紋あるお、俗にわさびおろしといふも、此器の形お借ていひ出せしならんと、是しからん歟、又下に図〈○図略〉する物も、其製大方同うして、形すこしく異なり、