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義経記

判官よし野山に入給ふ事
判官〈○中略〉しづかお召て仰せけるは、〈○中略〉たゞ都へ上り給へと仰せられけれ共、御ひざの上にかほおあて、声お立てぞなきふしける、侍共も是お見て、皆袂おぞぬらしける、判官びんのかゞみ(○○○○○○)お取出して、是こそ朝夕にかほおうつしつれ、見ん度に、義経おみると思ひてみたまへとてたびにけり、是給りて今なき人の様に、むねにあてゝぞこがれける、涙の隙よりかくぞ詠じける、
見るとても嬉しくもなしますかゞみこひしき人の影おとめねば〈○下略〉