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歷世女装考

鏡台に守お掛る、梛の葉、鴛鴦の羽、〈○中略〉
雅亮装束抄〈巻一〉に、鏡台に守お掛る事見えたり、〈○中略〉されば今より六百余年のむかし、鏡に守りおかくるも、かゞみは女の護身物なればなり、鏡奩に、梛の葉、おし鳥のつるぎ羽、〈○註略〉などいるも、守りおかくる心にて、近きむかしの俗習なり、俳諧連山集〈○註略〉梛の枯葉に残るすがた見〈付句〉虫干に母のうはきおくりかへし、俳諧毛吹草〈完永〉しだの葉お梛にもちひの鏡かな、〈宗房○註略〉俳諧夏の日〈享保廿年〉翌から人に逢ぬ奉公〈付〉梛の葉は鏡の裏の忘草、〈河東謡曲〉水調子結句に、曇らぬ月の面影は、梛の枯葉の名ばかりに、鏡の裏に残るらん、なぎはかゞみにのこるらん、〈○註略〉さて梛の葉おかゞみのはこに入るゝよし、いかなるゆえともおもひえざれば、書によりて捜索しに、古き物にはあたらず、俗談志〈巻四○註略〉に、伊豆権現は、豆州加茂郡に在、神木梛の木、凡三囲、高さ十丈ばかり、葉厚く竪に筋あり、此葉お所持すれば、災難お遁るとて守袋に納む、又女人鏡にしけば、則夫婦中むつまじきとなり、