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諸艶大鑑

心玉が出て身の焼印
川原町四条の角屋に湯屋あり、菊屋の小八、二階座敷に東山の風まてども、汗の止む事なし、〈○中略〉浴衣たゝむ間見合せけるに、三十四五にて小作なる男、損ねぬ鬢お撫でける、其櫛見知のあるにつ紋なり、〈○中略〉友とする人に、灸の蓋おして遣りながら語るお聞けば、我太夫に逢初めて、まだ間も無きに、某が定紋つける事、祇園八幡油断はせぬが、あらふ事かと人に聞けがしに咄す、広い都に居ながら、さても疎し、あれお知らぬげな、恋の目印とて、其時逢ふほどの客の紋所お書かせて、櫛何枚か拵へ置き、其日のお敵に合せて挿すは嬉しき事にもあらずと、紋ある櫛お二三枚取出だし、小者などに取らして笑へば、彼男短かく二つに折りて、大釜の下に熏ける、