[p.0420][p.0421]
歷世女装考

神代の髪の飾 笄
笄(かうがい)は本字笄(けい)なり、御国にて古書に髪掻(かうがい)とも書たれば、此物の本用は、今の毛筋立(けすぢたて)の如くにつかひ、あるひは髪の内の痒きお掻物としたるなり、
笄お髪の飾に挿はじめたる起原
元禄中頃にいたり、笄髷(かうがいわげ)といふ髪の風、京より起り、諸国にうつれり、其結ぶりは、笄お髪の根もとにさし、これに髪お巻つけて状(かたち)おなすなり、〈○註略〉笄は髪お理(つくろふ)物なるお、始て髪に刺物になりしは、此笄髷おこりしよりの一変なり、〈○中略〉此後十五年たちては、稍々飾りに挿物になりしや、真葛原、〈享保六年板、鷺水撰俳書、〉あらひ髪にはさゝぬかうがい、〈付〉照のよき縮にすかすお湯の肌、前句の笄お玳瑁として照のよきと附たれば、享保ごろ〈今より百廿年ばかり〉よりかざりにもさしたりけん、しかれども皆一枚甲のひきぬきにて薄き物なり、俳書十七回、〈享保八年板、淡々撰集、〉かうがいの反(そり)たがるのは誰に似る、〈付〉極暑はおそきかまくらの道、鎌倉見物の旅の女中、菅笠の下なる笄、日の照と頭熱にて反りたらんとの句なり、笄のうすかりし証とすべし、